ペトラルカの3つのソネット (イタリア語: Tre sonetti di Petrarca) は、フランツ・リストが作曲した歌曲集。3曲からなり、1838年に作曲された。サール番号はS.270、ラーベ番号はR578。リスト自身によるピアノ編曲版が存在する。歌詞はイタリア語を用いており、ドイツ系の作曲家によるリートとしては珍しい部類に属する。

概要

リスト作曲の『ペトラルカの3つのソネット』と言えば歌曲よりも、むしろ『巡礼の年』《第2年:イタリア》に含まれている同タイトルのピアノ曲の方がはるかに知られているが、実際には歌曲の『ペトラルカの3つのソネット』がオリジナルで、『巡礼の年』の方が歌曲の編曲作品である。リストが書いた歌曲の中でも大規模な作品で、録音数も比較的多い。

この歌曲集と大体同じ時期に書かれたシューマンの歌曲集『詩人の恋』は歌曲の伴奏としてはピアノがピアニスティックで雄弁な例として知られているが、リストの歌曲もまたピアノ伴奏が非常に雄弁であり、きわめて高い技巧を求められる作品も少なくない。『ペトラルカの3つのソネット』もまたピアノ伴奏が非常に雄弁で、声楽の入らないピアノ・ソロによる箇所も決して短くはない。 特に、初稿はピアノ伴奏がピアニスティックで技術的にも難しい。従来のドイツ・リートに比べるとイタリア・オペラのアリアの色彩が強い歌曲である。

作曲の経緯

リストは、当時の恋人だったマリー・ダグーと1835年から1838年の約4年間、スイスやイタリアで同棲生活を続け、この間に3人の子供 (ブランディン、コジマ、ダニエル) をもうけた。その間2人は、ダンテやペトラルカの諸作品を一緒になって読んだ。 この経験から、ダンテにまつわる諸作品 (『ダンテ交響曲』『巡礼の年』《第2年:イタリア》第7曲「ダンテを読んで」) が書かれたほか、ペトラルカからはこの『ペトラルカの3つのソネット』が生まれた。歌詞は、ペトラルカの『カンツォニエーレ』から3つのソネットが選ばれている。

作曲時期

初稿は1838年に作曲された。その後改訂され、第2稿が1854年に作られた

曲の構成

各曲タイトルの和訳は、エヴェレット・ヘルム 著、野本由紀夫 訳『〈大作曲家〉 リスト』、xvii頁。 によった。 イタリア・オペラ的な要素とドイツロマン派の和声が混在する歌曲集で、和声は非常にロマンティックである。歌詞は、発音の小さな違いを除けばペトラルカの原詩と同じだが、一部は改変されており、原詩では婉曲的にしか表現されていないラウラの名前が直接現れている (第1曲と第2曲)。

  • 第1曲 『平和を見出さず』(イタリア語: Pace non trovo)
  • 第2曲 『幸いなるかな、あの日よ』(イタリア語: Benedetto sia 'l giorno)
  • 第3曲『地上に見た、天使のような姿』(I'vidi in terra angelici costumi)

演奏時間

約20分

異稿

リストは、ブルックナーと同様あるいはそれ以上に自身の作品を執拗に改訂した作曲家で、多くの作品に異稿が存在する。歌曲の『ペトラルカの3つのソネット』も1度改訂されている。

初稿は、テノールとピアノのための歌曲としてリストのヴァイマール時代以前の1838年に作曲されたが、声楽・ピアノ伴奏共にこの版がもっともヴィルトゥオーゾ的である。ピアノだけでなく、テノールに求められる技術も高く、ハイCよりも半音高い変二音が要求されている。

1854年には改訂され第2稿が作られた。その際には独唱はテノールではなく、メゾ・ソプラノまたはバリトンに変更されている。その他、『平和を見出さず』と『幸いなるかな、あの日よ』の順序が入れ替えられた。

第2稿は初稿から大幅に改変されている。また、声楽・ピアノ伴奏共に、オペラ的な要素やヴィルトゥオーゾ的な要素が軽減され、単純化されている。

出版

  • 初稿
    • 歌曲集 1846年、ウィーンのハスリンガー出版社
    • ピアノ編曲版 1846年、ハスリンガー出版社
  • 第2稿
    • 歌曲集 1883年、マインツのショット社
    • ピアノ編曲版 1858年、ショット社 (『巡礼の年』《第2年:イタリア》の1部として)

編曲

歌曲の『ペトラルカの3つのソネット』を基にして、リスト自身がピアノ版編曲を制作した。歌曲の初稿をピアノ編曲したのが1844年から1845年にかけてのことである。後に歌曲の方が改訂された時にも、同時にピアノ編曲版の改訂版が作られた。この第2稿のピアノ編曲版が『巡礼の年』《第2年:イタリア》に収められている方の『ペトラルカの3つのソネット』である。

録音

リストの歌曲の録音数は決して多いとは言えないが、その中では『ペトラルカの3つのソネット』の録音数は多いほうである。

  • Franz Liszt, Lieder, ドイツ・グラモフォン、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ (バリトン)、ダニエル・バレンボイム (ピアノ), (初稿)
  • Liszt, Tre Petrarch Sonnets, Lieder, テルデック 2292-43206-2, マーガレット・プライス (ソプラノ)、シプリアン・カツァリス (ピアノ), 1986年録音 (初稿)
  • Liszt, The Complete Songs. Vol.1, ハイペリオン、Matthew Polenzani (テノール), Julius Drake (ピアノ), 2010年2月24-26日録音 (初稿)
  • Liszt, Lieder, ヴァージン・クラシック 50999 0709282 4, ディアナ・ダムラウ (ソプラノ)、ヘルムート・ドイチュ (ピアノ), (初稿)
  • D.Shostakovich, Suite on Poems by Michelangelo, F.Listz, Petrarch Sonnets, Ondine ODE 1277-2, ディミトリー・ホロストフスキー (バリトン)・Ivari Ilja (ピアノ), 2012年録音、(初稿)
  • Liszt, 15 Songs, BIS BIS-2272、Timothy Fallon (テノール)、Ammiel Bushakevitz (ピアノ), 2015年7月録音 (初稿)
  • Franz Liszt, Freudvoll und Leidvoll, ヨナス・カウフマン (テノール)、ヘルムート・ドイチュ (ピアノ), 2021年録音 (初稿)

脚注

出典

参考文献

  • エヴェレット・ヘルム 著、野本由紀夫 訳『〈大作曲家〉リスト』音楽之友社、1996年。ISBN 4-276-22162-5。 
  • Liszt, The Complete Songs. Vol.1, ハイペリオン、Matthew Polenzani (テノール), Julius Drake (ピアノ), ライナーノーツ (PDF)
  • Liszt, Lieder, ヴァージン・クラシック 50999 0709282 4, ディアナ・ダムラウ (ソプラノ)、ヘルムート・ドイチュ (ピアノ), ライナーノーツ
  • D.Shostakovich, Suite on Poems by Michelangelo, F.Listz, Petrarch Sonnets, Ondine ODE 1277-2, ディミトリー・ホロストフスキー (バリトン)・Ivari Ilja (ピアノ), (初稿)、ライナーノーツ (PDF)

外部リンク

ペトラルカの3つのソネットの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト


リスト:巡礼の年第2年「イタリア」S.161より「ペトラルカのソネット第123番」 YouTube

ペトラルカの3つのソネット Tre di Petrarca 山本康寛 Yasuhiro Yamamoto YouTube

104 Del Petrarca

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Songs~R.シュトラウス:4つの最後の歌、リスト:ペトラルカの3つのソネット、ブリテン:この島国で、他 ホワン・スミ、ヘルムート・ドイチュ