ラーオダメイア(古希: Λαοδάμεια, Lāodameia, ラテン語: Laodamia)は、ギリシア神話の女性である。ラテン語ではラオダミーア。長母音を省略してラオダメイア、ラオダミアとも表記される。同名の女性が複数おり、
- ベレロポーンの娘
- アカストスの娘
のほか数人の女性が知られている。以下に説明する。
ベレロポーンの娘
このラーオダメイアは、ホメーロスの叙事詩『イーリアス』によると、リュキア王イオバテースの娘ピロノエーと英雄ベレロポーンの娘で、イーサンドロス、ヒッポロコスと兄弟。ホメーロスは母親の名前を言及していないが、アポロドーロスはピロノエーとしている。
ゼウスに愛されて、サルペードーンの母になったが、後に女神アルテミスの怒りを買って射殺されたという(突然死したという意味)。ただしラーオダメイアの夫をクサントスとする説もある。サルペードーンはヒッポロコスの子グラウコスとともに、トロイア戦争でリュキア人を率いてギリシア人と戦った。
これに対してサルペードーンはゼウスとエウローペーの息子であり、ミーノース、ラダマンテュスと兄弟とする説もよく知られている。
シケリアのディオドーロスは、ベレロポーンの娘はデーイダメイアという名前で、ゼウスとエウローペーの子サルペードーンの息子エウアンドロスとの間に、トロイア戦争で戦ったサルペードーンを生んだと述べている。
アカストスの娘
このラーオダメイアは、イオールコス王アカストスと、アステュダメイアの娘で、ステロペーと姉妹。イーピクロスの子プローテシラーオスの妻。
ラーオダメイアは非常に貞淑な女性として知られる。彼女はプローテシラーオスと結婚したが、結婚後わずか1日で夫はトロイア戦争に出兵することになり、そして早々に戦死してしまった。一説によるとこの死の原因は、新居の建設に際し、神々に犠牲を供えることを怠ったためであるという。
ラーオダメイアは夫が死んだと聞いても忘れることが出来ず、夫にそっくりな像を作って交わった。憐れに思った神々はヘルメースに命じてプローテシラーオスを冥府から連れ戻してやった。ラーオダメイアは夫がトロイアから無事生還したと思って喜んだが、冥府に戻されたとき絶望して自ら死んだ。
またラーオダメイアは夫の訃報を聞いたとき、神々に願って3時間だけ夫と話をすることを許されたともいわれる。しかし3時間がたつと夫は再び冥府に戻された。ラーオダメイアは悲しみに耐えられず、夫にそっくりな青銅の像を作って自室に運び、神々の祭祀に見せかけて供物を供えながら、密かに像を抱きしめたり、キスしたりしていた。しかしその様子を使用人に見られ、人々を偽っていたことが露見し、父アカストスは娘のためを思って青銅の像を燃やしたが、ラーオダメイアはその火に飛び込んで焼け死んだという。
オウィディウスは、ラーオダメイアはまだ遠征軍がアウリスに停泊している頃に、寂しさに耐えられずに蝋で夫の像を作ったとしている。
死後については、ウェルギリウスは叙事詩『アエネーイス』の中で、ラーオダメイアが悲恋のために死後も冥府で苦しんでいると歌っている。ピロストラトスもラーオダメイアが冥府にいるとしているが、英雄霊となったプローテシラーオスがしばしば冥府を訪れるため、今でも新婚当初のように仲睦まじく暮らしていると述べている。
系図
その他の女性
- アミュクラースの娘で、アルカディアー地方の王アルカスの妻の1人、トリピューロスの母、エラソスの祖母。
- 一説によるとアルクマイオーンの娘で、プティーアー王ペーレウスの妻、ポリュドーラーの母。
- 木馬作戦に参加したギリシアの戦士アンティクロスの妻。
脚注
参考文献
- アポロドーロス『ギリシア神話』高津春繁訳、岩波文庫(1953年)
- 『ギリシア悲劇全集12 エウリーピデース断片』「プローテシラーオス」安村典子訳、岩波書店(1993年)
- オウィディウス『ヘーローイデス 女性たちのギリシア神話』高橋宏幸訳、平凡社ライブラリー(2020年)
- 『ディクテュスとダーレスのトロイア戦争物語 トロイア叢書1』岡三郎訳、国文社(2001年)
- コルートス・トリピオドーロス『ヘレネー誘拐・トロイア落城』松田治訳、講談社学術文庫(2003年)
- パウサニアス『ギリシア記』飯尾都人訳、龍渓書舎(1991年)
- ヒュギーヌス『ギリシャ神話集』松田治・青山照男訳、講談社学術文庫(2005年)
- ピロストラトス『英雄が語るトロイア戦争』内田次信訳、平凡社ライブラリー(2008年)
- 『ヘシオドス 全作品』中務哲郎訳、京都大学学術出版会(2013年)
- ホメロス『イリアス(上)』松平千秋訳、岩波文庫(1992年)
- 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店(1960年)
関連項目
- ラオダミア (小惑星)




